本書は、原田泰さんの最新の時事論説集である。原田さんの持ち味である常識を覆すような斬新な視点と、それを裏付ける実証的なデータや簡単な計量分析の結果が駆使されていて、さすがに読ませる。
特に日本のマスコミや政治家の間では、「バラマキは悪である」という意見が根強い。これは僕もしばしば奇矯な意見だと思っているもののひとつだが、それに対して原田さんも以下のように書いて「バラマキ=悪」論に反論している。
「バラマキが悪いという人々には、バラマキでない政策がどれだけ良いのかを具体的に示してほしいと思う。東日本大震災でも、バラマキ型の政策が有効である。被災者に直接の金銭給付をする方が、山を削って丘を作るよりも効率的である」
これは原田さんの意見ではないが、「バラマキ」という語感のみから、おそらく多くの人はそれが好ましくないとでも思うのだろう。官僚や政治家が使い道を限定しているやり方こそ非効率とまた利権の温床だと、多くの国民が批判しているにもかかわらず、同時にそれをバラマキ(多数の人に薄く広くお金の使い道を託す)よりも優越していると考えている。これは無知によるものなのか、それとも自己欺瞞なのだろうか?
さてこの「バラマキ=悪」論を東日本大震災の復興政策の文脈で読み解いている「大震災からの復興でもバラマキは有効」の節を見ておこう。
「このような状況(東日本大震災の悲惨さ)だからこそ、子ども手当、高速道路無料化、高校無償化、農家戸別所得補償の、いわゆるバラマキ4Kを削って、復興予算に充てるべきだという議論がある。しかし、このような議論は誤りである。…子ども手当より老人手当の方が問題である。農家戸別所得補償は、訳のわからない農業保護制度よりずっとましである。高速道路無料化のうち自民党の始めた休日1000円は渋滞を招くだけだからやめた方がよいが、使われていない高速道路を無料化することは地域活性化になる。高校無償化は微妙だが、ほとんどの子どもが高校に進学する時代、義務教育化への道程として無償にしても良いのではないか。ただし、これまでの予算に追加するのではなくて、これまでの予算を削って、4K予算を確保すべきである。確保できなければ、それに応じて減額するのはやむをえない」
要するにバラマキ政策は、特定の階層に特定の使い道を強制するのではない、という意味でバラマキなのだ。それは税金の効率的な使途だ。対して、バラマキ=悪論はしばしば政府よりの論者やまた政治家から聞こえるが、ようするに自分たちの既得権を削られてバラマキにまわされるのが好ましくないといいたいのかもしれない。
震災復興の点でもバラマキ政策は有効だと原田さんはいう。例えば仮設住宅の提供だけではなく、家賃補助というバラマキも選択肢に積極的にいれるべきだという。これも議論をよぶ論点だろう。
本書はバラマキ=悪論という、その実態は単に「バラマキ」という言葉のイメージでしか考えていない多くの人々に十分な啓蒙のための素材と考えるヒントを提供している、非常に刺激的な本である。またさまざまな政治メカニズムの経済学的分析も豊富だ。原田節の炸裂といっていい。