さて今年も残りわずか。しかし本当に「今年」とひとくくりするのがためらわれるほど大変な一年でした。社会的にも個人的にも。そんな中ですが、淡々と今年出た経済書(去年12月から今日現在まで)の中で「おすすめベスト10」と「読んだらがっくりベスト5」をあげたいと思います。後者はどちらかというと読む前から「がっくり」が予想されていたものもありますが。順不同です。

おすすめベスト10+番外3+映画

1 タイラー・コーエン『フレーミング』……物語の経済学など最先端の経済学の話題を様々なエピソードから構築した啓蒙書の極北のひとつ。

2 タイラー・コーエン『創造的破壊』……文化波及の二重運動(グローバル化は文化間の差異を破壊する一方で、文化内の多様性を創造する)を摘出したコーエンの最もすぐれた文化経済学の書。

3 岩田規久男『経済復興』……東日本大震災をめぐる経済対策をミクロ・マクロ両面で考察し、新解釈やすぐれた実践を提案したもの。

4 Danniel S.Hamermesh BEAUTY PAYS……やはり美男美女は雇用はじめ経済的シーンでお得? 美しさへの課税は? みんなが何気に思ってた人類の美を経済学的に診断。

5 高橋洋一『財務省が隠す650兆円の国民資産』……なぜ震災後の経済不安定な時期に、財政再建という目的も手段も異なるものが菅・野田らの政権で追及されるのか。日本の財政危機問題を真剣に考え直すためにも必要な、今年書かれた高橋さんの本の中で最もすぐれたもの。

6 アマルティア・セン『アイデンティティと暴力』……人間は経済的合理性だけの存在ではなく、さまざまなアイデンティティをもつ存在なんだよ、しかもそれゆえ理性的判断が何よりも重要なんだよ、と説く優れた経済書。『正義のアイディア』も出ました。

7 ジョージ・A・アカロフ&レイチェル・E・クラントン『アイデンティティ経済学』……人は複数のアイデンティティを選択する理性的な存在であることを、モデル化しようとした書籍。実験段階だが、ジェンダー格差、社会的排除など刺激的な考察が満載。

8 Bryan Caplan SELFISH REASONS TO KAVE MORE KIDS ……どんだけうまく育てても、結局、遺伝子の力の前では意味なし意味なし、というメッセージを経済的環境から全面展開。異論百出ながらもそれはそれで刺激的な極北の書。

9 Itzhak Gilboa Rational Choice……これは拾い物。期待効用仮説からゲーム理論の基礎までを対話形式なども導入したり多彩な話題でいっきに読ませる。

10 田中秀臣『AKB48の経済学』……今年一年もっとも自分の人生に影響を与えた本。自著で自画自賛ですまん 笑 最先端のアイドルグループを通してデフレカルチャーを追求する面白い試みだったと思う。

番外と書いたけど単純に10冊にならなかっただけ。今年も有益な経済書はいっぱいあった。

番外1 Jordi Gali Unemployment Fluctuations and Stabilization Policies:A New Keynesian Perspective……最先端のマクロ経済学の講演。Galiの世界的にスタンダードなマクロ経済学の本はそのうちもごもごの予定。

番外2 山形浩生『要約 ケインズ 雇用と利子とお金の一般理論』……なかなか面白い試み。でも解説とケインズ自身の主張とはずれもある。本当にケインズからいま学ぶべきものがなんなのか、よくわからなくなる一冊でもあり複雑な思いにもさせられる。ケインズと同時代の危機対応の経済学(I.フィッシャーやJ.ヴァイナー、それにE.リンダールやG.カッセル、石橋湛山ら)らの業績紹介も重要と痛感。危機の経済学といえばケインズという妄想的慣習のひとり勝ちを終焉させるべきときがまさに今では?

番外3  ヨラム・バウマン, グレディ・クライン『この世で一番おもしろいミクロ経済学』……文句なしにわかりやすい、野心的、面白い!

本当の番外としては、やはり映画『ヤバい経済学』ははずせない。TUTAYAとかでレンタルしてみてね。

がっくりベスト5 

1 増田悦佐『日本と世界を揺り動かす物凄いこと 』……対談番組でお会いして、番組内のお話でもまた場外含めてがっくりし通し。金融政策への理解が僕とはまったく異なる。

2 池田信夫『イノベーションとは何か』……時間の無駄。こういう本に魅力を感じる人が、この本から去る勇気をもつことがイノベーションではないか。

3 浜 矩子『1ドル50円時代を生き抜く日本経済』……為替レートや物価の問題など、増田氏もそうだが事実上日本銀行の政策にはほぼ無意識無批判の態度で、なぜか日本だけが構造的な問題でそういうのが決まり、ほかは文化論的なものとか危機ゆえに危機みたいな話で終始する。さっぱり国際情勢がわからなくなる快著。

4 バブル/デフレ期の日本経済と経済政策シリーズ……経済学者たちの自己満足に多額の税金が使われた醜悪そのものの偉業。全体の書評を何度も書こうと思ったがそのたびに吐き気すら催して断念。一部の論文(それについてだけ書評は書いた)をのぞき、さっぱりバブルやデフレがなんで起きたかわからない。また多くの編者の序文が全く当該する巻の主張を要約せず、自説の垂れ流しであることも精神的な腐敗さえ感じた。まさにダメ本の決定版。インタビュー本も道楽レベル、ただやっただけで無意味に長く書籍にする必要はない。役所の調書か? 要するに編集方針の曖昧性と経済学者の相撲界まっさおの税金ごっつあん体質の産物。

5 『危機の中で<ケインズ>から学ぶ』……ビックネームを集めて学会までつくり、まったく知的な刺激もなければ、現実への処方箋もない本。上にあげたシリーズを学説史的な意味で補完してしまってる。学者たちの自己満足の醜悪なサンプル。

やはりがっくりくる本は読まないのがいい。

ただ今年は多くのいい経済書が多くあった。今回とりあげなかったけど、まだ20冊くらいはいい本、ためになる本(例えば小峯敦編著『経済思想のなかの貧困・福祉』の太子堂氏のハイエク論文、主張は違えど『Matlabによるマクロ経済モデル入門』<でも島澤氏はリフレ支持>などは実践的な意味でもよかったなど)があったことは明記しておきたい。