明けましておめでとうございます。さまざまな意見や価値観をもつ人たちとの対話を意図した企画「ミュルダールを超えて」、今年もよろしくお願いします。新年最初は、K-POPというエンタメ系の話題で気楽にスタートしたいと思います。

 西森路代さんの著作『K-POPはアジアを制覇する』(原書房)は、それまでまともに論じられてこなかったK-POPの世界を文化論的な視座から読み解いた興味深い著作でした。K-POPについてはいろんなファン本や解説本がありますが、西森さんのは本格的な評論として代表的なものだと思います。僕はあまりK-POPには詳しくはないので、今回は基本的なところから、いまも日本で根強い人気の続くK-POPの最新のトレンドを語っていただくことをお願いしました。

?田中:西森さんの『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)の奥付をみると2011年3月初旬なので、実際に出たのは2月の真ん中ぐらいでしたか?

?西森:2月の16日が発売でした。

?田中:震災の影響はあまりうけなかった?

?西森:いやあー、震災の数日後に大谷能生さん、速水健朗さん、矢野利裕さんとのイベントがあったんですが、電車も止まったりするし、やはりみんなに来てくださいといえなかったですね。それでも来てくださった方には本当に感謝しています。

?田中:震災直後は文化的な行事がやはりものすごい勢いで自粛されてしまいました。震災で国民がうけた精神的ダメージを配慮する必要性もわかりますが、やはり文化が回らないと結局は、経済も回らず、そのつけは復興にも悪影響するんですよね。アイドル界では、当時、ジャニーズが公演をするかどうかが芸能界の再起動の目安になるとかならないとかまことしやかに言われてました。その噂はウソだったんでしょうけど(笑)。

?西森:いずれにしても当時は取材やインタビュー仕事にもブランクがあいて、震災後に初めてインタビューしたのは、台湾のヴァネス・ウーさんという方でした。日本のことを心底心配してくれていてありがたかったです。

?田中:西森さんの最近のお仕事では、タワーレコードでのお話しを拝見しました。

?西森:韓国のドラマについてのものだったでしょうか。韓国のドラマの方が、K-POPよりも韓国の文化の移り変わりがわかりやすいですね。

?田中:韓国のドラマは、冬ソナの本を書いたことがあるんですが、僕は昔から韓国の男性俳優や歌手のモムチャン志向が大嫌いで(笑)。K-POPも男性歌手にはまったく興味がありません。西森さんの『K-POPはアジアを制覇する』を読むと、肉体派以外は、SHINeeぐらいしかいない……。

?西森:いえ、SHINee以後、線の細い子が増えているんですよ。体型と文化と社会ってリンクしていますね。

?田中:韓国のドラマは、主人公の男は現世権力の権化で、地位が高くお金持ちでマッチョが一般的ですよね。

?西森:それが最近になって御曹司以外のキャラクターも出てきました。小説家で仕事を終えると自分探しの旅に出たり、車や携帯電話ももたず自転車に乗った自由人みたいなキャラクターの出現は、日本だと「ふーん」という感じだけど、韓国のドラマだとかなり斬新なんです。

?田中:『恋愛時代』という僕の大好きなドラマぐらいかな、ふつうのサラリーマンが主人公なのは。書店員で離婚歴があってバス通勤。そういうふつうの光景が韓国ドラマでも広がってきたんですね。

?西森:2007年くらいから、「僕は体を鍛えません」と言う20代の俳優も出てきました。日本でも人気だった『宮 -Love in Palace-』のチュ・ジフンやその仲間たちは、文化系な発言をよくしています。読んでいる本も江國香織とかの日本文学も多いし、映画だったら三木聡監督の「亀は意外と速く泳ぐ」が話題によく出てきます。好きな俳優はオダギリジョーと蒼井優、好きな音楽もR&BやHIP-HOPではなく、渋谷系やクラブミュージックを聴くみたいなことを言う子が増えましたね。それとロックが新しいんですよ。ロックは日本ととらえ方が違って、韓国では新しい価値観で、自由度の高いものとしてみられている。日本人が韓国のアイドルを見てびっくりするのは踊りのシンクロ率が高く、フォーメーションがころころ変わるところじゃないかと思います。でも韓国のアイドルは価値観が新しくなればなるほど衣装もバラバラでカラフルになってきてダンスもフリースタイルっぽくなるという傾向があります。

?田中:新しい流れはフリーで、旧来のシンクロ的なものもある。多様化が進展しているんですね。

?西森:韓国の若い人からは、「日本は多様化していて個性があってうらやましい」とよく言われますが、最近は韓国でも多様化を認めようという動きがあるようです。

?田中:ところで女性アイドルの方はどうなんでしょうか? いまだに人気は衰えない?

?西森:今だったら、多くの人が注目するアイドルにIU(アイユー)というソロ歌手をあげるでしょうね。

?田中:年末のミュージックステーションをみると、日本の女性アイドルと比較すると、KARAとかK-POP勢の完成度がやたら目を惹きますが。

?西森:いや、でも日本の女子アイドル文化はやはりすごいと思います。アイドルがいっぱい出ていたときのHEY!HEY!HEY!をみたら、意外なアイドルグループのダンスのきれがよかったりする。K-POPのダンスと日本のダンスは構成の仕方が違うだけなんです。市場がそれを日本のアイドルに求めてないだけだと思います。

?田中:日本のアイドルは素人っぽいのがいいというか。それが求められてますよね。僕は最近さすがにAKB48には食傷気味で、違った角度でアイドルをみてる。

?西森:田中さんは今度、福岡に行かれるとか。地方でもひめキュンフルーツ缶とかいますよね。

?田中:そうそう、彼女たちは松山の特定の商店街とか熱心に応援していてファンも多い。

?西森:愛媛新聞社も彼女たちの写真集も出しているし。松山で大街道や銀天街という商店街を歩いていると彼女たちの名前をたくさん見かけました。自分の地元が愛媛ということもあり、取材でなくてもいいけれど、一度生で見てみたいんです。

?田中:えー、写真集出してるんだ、それはすごいなあ(注:『ひめキュン写真缶』)。しかし最近は本当にアイドルへの注目は大きくて、僕もかなりの頻度でアイドルについて聞かれてますね。

?西森:でも経済のコメントもよくされてますよね。この間、『週刊現代』の「10年後も生き残る会社」の記事も読みましたよ。その中で、電子部品の分野には「円高傾向はマイナスだが、高い技術力で将来にわたり安定した受注が見込める。『韓国のサムスン電子が栄えるほどこの分野は潤う』(石井淳蔵氏)」と書かれてたんですが、最近、韓国の人に会って必ずいわれるのが、「LGやサムスンのテレビが売れて日本の家電業界は厳しいとか言われているけれど、韓国製のテレビが売れると日本の製造部品の分野が潤ってるんだ」ということなんです。K-POPでも、少女時代の振付を日本の仲宗根梨乃さんが担当したり、DAISHI DANCEやFPMの田中知之さんといった日本のクリエイターがK-POPアイドルの楽曲を作っています。K-POPの世界では、アメリカからもテディ・ライリーやカニエ・ウエストなんかをクリエイターとして起用していますが、アメリカのクリエイターと同じように、日本のクリエイターも注目されているんです。

?田中:でも、いまは他国通貨に対して円高が放置されてるので、わざわざ輸出産業を中心にして日本の多くの企業はだいたい3割ぐらい重荷をしょいこんで商売してますからね。で、韓国なんか曲がりなりにも景気が底堅いのは通貨安政策をいち早く採用したからなんですよね。

?西森:なんで日本は通貨安政策をとらないんですか。

?田中:円高というのは円が市場に出回ってない証拠なので、円を供給する日本銀行が円高を放置しているということなんですよね。日本銀行は官僚組織だから責任をとらずに、以前からやっていること続けるだけなんですよね。新しいことをやって失敗することを非常に恐れている。リスクを取って頑張ってるアイドルたちを見習うべきだよね(笑)。

西森:NHKが海外視聴者向けに制作、国内外で放送している音楽番組「J-MELO」が、東京芸術大学毛利嘉孝研究室の協力の下昨年度行った「J-MELOリサーチ2010」の調査結果を基にしながら、グローバル化におけるJポップのあり方を徹底的に議論するという、「グローバル化するJポップ」というイベントが2011年4月23日にありました。m-floのTaku Takahashiさん、音楽プロデューサーの山口哲一さん、早稲田大学国際教養学術院教授の岩渕功一さんがパネラーとして出演されていて、そこで、日本の音楽界でも、責任分散的に音楽をつくっていることが問題なのではないかという話題がありました。分散化しすぎていて全体の責任をとって「やれー!」と号令をかける人がいない。いま日本で成功しているものは、プロデューサーがたっているものばかりではないですか。ジャニーズ、AKB48もそう。韓国やアメリカでも元気があるのは棟梁みたいな人がいて楽曲の方向性を決めるから成功しやい。でも日本では新しいプロジェクトをやるときに責任を分散して個々のリスクを回避する傾向があると。さきほどの円高を続ける官僚と同じものを感じます。

?田中:なるほど。ももクロでも川上さんみたいな統合するマネージャーがいたりして成功に導いている。インセンティブの設計がうまくいってるものが成功しやすいのかな。

?西森:Perfumeの中田ヤスタカさんなんかもそうですよね。秋元康さんもそうだけど、日本で責任を負えるものって、最初から成功しているものはなくて、比較的自由にやったものが成功してきて、そこから責任をとってるものが多いような。

?田中:結果として責任をおってるだけで、最初から責任を引き受けてないというわけ?

?西森:そういうこともあるだろうけど、それよりもスタート時のプロジェクトが小さいと責任も小さいために分散しなくてよくて、プロデューサーも好き勝手やれる。そして、そのプロジェクトが成功したら、プロデューサーはプロジェクトを成功させた人として発言力も強まるので、大きなプロジェクトになっても、責任分散が進まないということなのではないかと。最初から大きいプロジェクトだと、まず責任を分散してからスタートするので、すべての責任を負える人がでにくい。

?田中:なるほど。そうかもね。韓国のアイドルを育成するシステムって一般的なイメージは事務所のオーディションがきつくて、その狭い問を通過して何年もレッスンを重ねてようやくデビューするということでいまもいいですか?

?西森:そうですね、それは崩れてませんね。それとひとつオーディションを落ちても別な事務所に行っていくつも受けたりしているようです。

?田中:受験と同じだね。

?西森:JYPエンターティメントという事務所があって、代表するアイドルは2PMとWonder Girlsなんですけど、そこは8年、9年とレッスンさせる厳しい感じ。

?田中:昔の日本の演歌歌手並みですね。

?西森:でも、韓国では、今はアイドル文化よりももっとほかの音楽に目をむけたいと思っている節もあるようです。一番韓国でアイドルが盛り上がったのは2007年から2008年で、それからもう4年目ぐらいになるので。

?田中:まあ、日本のアイドル人気はかなり長期間ですよね。

?西森:韓国でも「私は歌手だ」というテレビ番組があって往年の歌のうまい歌手たちにオーディションをやらせて一般人の審査で脱落させられる過程を見せる番組があります。

?田中:日本でもなんか似た番組が80年代にあったかもなあ。

?西森:そうですね。韓国を見ていると80年代や90年代の日本をいろんなところで思い出します。韓国は音楽はビルボードとかでヒットしているサウンドと同じ時間軸でできているんですけど、芸能界や文化のシステムは一昔の感覚もあります。今の韓国は、ドラマでも音楽でも、復古主義と言って、昔のものを掘り起こすのがブームです。HIP-HOPだとオールドスクールをサンプリングに使う時代が1990年代にあったり、日本でも2000年代にやはり過去の音楽を掘り起こす文化があったと思います。また、80年代後半に日本では菊池桃子がロックのバンドを組んでみたり、小泉今日子が「なんてったってアイドル」を出すことで、アイドル文化に対してのカウンターを表現してみたりという、アイドルのカオス時代があったと思いますけど、韓国もいまそれに近い感じで、アイドルに対する疑問がわいている時代。それを象徴しているのが、BIGBANで。BIGBANは最初めちゃめちゃヒップホップだったんだけど、それからクラブサウンドを取り入れて、いまは急にロックみたいなことになっています。リーダーのG-DRAGONがこのロックな楽曲のパフォーマンスでギターを壊すんですけど、過去にも1985年の紅白歌合戦で吉川晃司がギター壊してましたよね。個人的にアイドル自身がアイドル文化に疑問を持ったとき、人はギターを壊すんじゃないかと思ってます(笑)。さっきも言ったようにロックは韓国では一番自由度が高いと思われてるので、最先端。今後、日本の90年代のバンドブームみたいな状況に入りそうな気もします。

?田中:イカ天みたいな。

?西森:そうですね。韓国でも「弘大(ホンデ)」という街の周辺には大学があって若い人のパワーが集まるスポットでライブハウスも多い。バンドはそこで演奏するのがかっこいいとされていて、チャン・グンソク主演の「メリは外泊中」などにも、そんな文化が描かれています。

?田中:日本だと下北沢とか、地方だと博多みたいなバンド文化と同じ。

?西森:本当にそんな感じです。韓国は、今が価値観が変わる転換点のような感じでしょうか。あと、日本にも80年代終わりにカフェブームがいまあったけど、韓国ではここ数年がカフェブームです。

?田中:いまちょっと聞いてて思ったんですが、韓国の古いシステムなんかは、これはまだ韓国の音楽産業が旧来のテレビやCDの売り上げなんかに依存しているからかなあ、と思いました。そのマーケティング手法を海外の市場でも追及するのが韓国のやり方かなあ、と思いました。でも日本をはじめ欧米では、ライブ中心やアーティスト関連の物販で設けたりするのが主流になっている。

?西森:そうですね。でも、SMエンターテインメントなんかは、今後は欧米や日本のようにライブ市場に期待しているのがわかります。

?田中:KARAとか少女時代をみても、やはり日本でのCD売り上げが中心で、「会いに行ける」コンセプトは追求してない。

?西森:少女時代と同じ事務所のSUPER JUNIORなんかは、会えないことを逆手にとって、「遠恋系」なんてキャッチフレーズを日本側がつけていました。

?田中:イベント手法も「会いにいける」感じじゃない。ただ「会いにいける」手法も米国なんかはコンサートの単価とかかなり高いけど、日本はずっと低下価格でおさえている。

?西森:中国や東南アジアなんかでも大規模なコンサートは、平均二万円ぐらいなんですよ。一人当たりの生活水準をくらべたら、日本の2万円とアジア各国の2万円のもつ意味はまったく違う。日本の女性アイドルのライブなんかはもっと低いですよね?

?田中:女子のグループアイドルの定期的なライブは、3千円は高価格帯、2千円でぎりぎり、理想は千円みたいな。僕の『AKB48の経済学』で、低価格は見に来る人の財布の制約が厳しいからって書いたら、山形浩生さんなんかが、それは演者の歌や踊りがへたなのでそれに価格が見合っているだけ、といってた。それはまあそういう側面もあるけど主因かなあ、と思う。やはり、デフレの影響が大きいと思うけど、所得に余裕のない人が多いために低価格のライブが好まれていると思う。この前、NHKの番組でもアイドルのコンサートにきている40代から30代くらいの人たちが「2千円超えるときつい、ほかの(低価格の)アイドルの方にいく」といってた。やはりデフレの制約はあるように思ってます。

?西森:大学生ぐらいでも女子アイドルのライブにいってる子は三千円超えるともういけない、といってますね。

?田中:アイドルの写真集も低価格ですね。僕はそういうデフレとアイドルの関係をみてきたんですけど、最近は注目しているのは、海外との関係と地方での進展ですね。海外の方だとAKB48をみるとジャカルタにはJKT48みたいなものがあったりしてアジアを意識した市場が中心。

?西森:最近は、EXILEのATUSHIが、台湾でアルバムをリリースするということで、台湾の人気アーティストであるジェイ・チョウや、デビット・タオなんかとコラボしています。アイドルというわけではないけど、台湾にはウェザーガールズというお天気おねえさんのコンテンツがあります。台湾の女子高生の制服をきて、つたない日本語で台湾の天気を放送するとか、そんなものがあります

田中:(笑)

?西森:戦隊ものやOLヴァージョンもあるんですよw

?田中:それは面白い。そういえばお天気おねえさんはまったく未開拓の分野だなあ、文化経済学的にw。

?西森:世界各国のお天気おねえさんは、どこの国でも、その国の男性の好みの女性を具現化したような存在なのが、すごく不思議です。

?田中:日本では知的な傾向もありますね。例えば柏木由紀なんかお天気おねえさんをやってて、とても安定したトーク力で頭の回転が速く知的なイメージがある。

?西森:そうですよね、確かにテレビでちゃんと話せるだけでも相当にすごいスキル。バラエティ番組などで、短い時間でちゃんと会話を打ち返して、それでウケを取るっていうことがいかに難しいことか……。尊敬しますね。

?田中:そうそう。実際に自分でやればわかるだろうけど、テレビや舞台なんかで不特定多数を前に話すだけでもそうとうに頭がよくないとできない。ひとつの大きな才能。それがなんかネットの主流なんかは想像さえもしてないでただ批判するだけ(苦笑)。僕のFacebookの「友人」にはお天気おねえさんのキャリアがある石田紗英子さんがいるんだけど、彼女も報道番組でハードな司会や、また社会問題についてのインタビューもこなしている。そういえば石田さんはクリスマスイブに初めてのDVDを出したんですよ。かなりきれいな。柏木由紀もそうだけど、癒し系で、セクシー、しかも知的な面もあり、複合的な側面を日本のお天気おねえさんはもってるかも。台湾もそんな伝統を引き継いでるのかな。

?西森:台湾の場合は、日本独特の「萌え」の文化を、すごく高度に理解した形が、ウェザーガールズなんじゃないかと思いますね。日本のアイドルのグローバル化のヒントになると思います。

?田中:なんか最後はK-POPじゃなく、お天気おねえさんの話になっちゃたけど、これから研究すべき文化的テーマですね(笑)。

?2011年12月下旬 新宿プリンスホテルラウンジにて

西森路代著『K-POPはアジアを制覇する』(原書房)