以下は二か月ほど前に雑誌に投稿したものの転載です。参議院で消費税法案が審議される中でぜひ読んでいただきたいものです。

 ツイッターはとても便利で、読者のみなさんも使われている方は多いでしょう。最近、ある民主党の若手議員が、真夜中につぶやいてるのを目撃しました。だいたい、こんな内容。 

 「いまの国会はほとんどの案件の審議が事実上ストップしているなかで、消費税に関する論議だけが一日7時間超もかけて猛烈なスピードで進んでいる。この調子だと噂されているように、(いまは反対している)自民党が最後は連携して消費税増税だけは通過してしまいそうだ」。
この消費税を段階的に10%にまで上げていく方針は、実は税と社会保障の一体改革の一環だったんですが、すでに野田政権はその改革の方はほとんどせずに、ただ単に消費税率を上げたいだけみたいですね。

 そもそも消費税率を10%にあげても、学習院大学教授鈴木亘さんの試算では、現状の年金など社会保障の維持にはまったく足らず、社会保険料とあわせて最終的には所得の7割から8割を負担しないと、現状維持すらできないということです。これには実は理由があって、改革を放棄しているからそんなとてつもない負担になってしまうのです。ひとつは消費税で社会保障経費を賄うのではなく、鈴木教授は相続税への課税強化を主張しています。また景気がよくなれば税収も復活するので、それとあわせれば将来的な社会保障負担のかなりの部分を解消できる、というのが僕の考えでもあります。

さて今回のテーマには、「いまの日本の消費税は実は20%超えてるんじゃないか」とか書いてますよね。えええ!と驚かれる人が大半でしょう。

 二年ほど前に早逝した伝説のエコノミストに岡田靖さんという方がいました。ネットの世界では有名で「ドラエモン」というハンドルネームでインチキ経済学をばっさばっさ論破していった方です。その岡田さんと駒澤大学の若き経済学者飯田泰之さんと生前に行った対談に、日本の本当の消費税率の計算の仕方が話題になっています(芹沢一也&荻上チキ編『経済成長って何で必要なんだろう?』(光文社))。

 この対談は、日本経済の大きさを測る尺度としてのGDP(一つの国の経済規模のことです)の簡単な解説からはじまり、その変化率(つまりは経済成長率)の持つ意味が実に面白く語られています。

 そのなかで先進国はだいたい毎年、2%~2.5%ぐらい実質GDPが成長するのは当たり前という発言がでてくるのです。これは人間と同じように、だいたい毎年、学習効果などが作用して、それくらいの成長トレンドがだまっててもあるということです。ふたりの会話を引用しましょう。

岡田:GDPの増え方を見ると、先進国では、長期的に年2%から2.5%ぐらい、一人当たり生産額は増え続けています。どうも、人間の知識の蓄積していくスピードというのがだいたいそんなもんらしいですね。
飯田:学習効果ですね。
岡田:学習だとか、世界のどこかで新しい技術が生まれて出てくることが、平均すると一人当たり生産額を2.5%ぐらいが増やしている。ですから、売れる量が変わらないなら、黙ってても人手が少なくて済むことになります。
飯田:いらなくなると
岡田:同じものをつくるんならそうです。だから経済全体が横ばいということは、要らなくなっている人たちがすごく増えているといいことです。要らなくなっている人たちのところに、しわ寄せが全部行っちゃっている。

 経済の大きさが横ばいであることは、経済学的に「要らない人たち」(非正規雇用といった就業が不安定な人たちや潜在的失業者など)を増やす一方で、その人たちが「要る人たち」(介護部門など)に転身することをも妨げている、と岡田さんは指摘しているのです。

岡田:長期的に見れば日本は人口が頭打ち、あるいは若干減り気味ですから、人手が多く要る労働を外国にもっていくこと自体はプラスのはずです。もし生産活動に昔どおりの人手が必要だと、例えば老人のケアをする人がいなくなってしまう。ですから、本来なら国内でなるべく人手を使わないで済むような技術革新が必要です。しかも現在でも介護労働は低賃金で労働条件が悪くてなり手が足りない。つまり、経済全体が成長して、比較的少ない人手で多くを生産し、その一部を介護などに回すことができれば、世の中はバランスをとることができる。結局は、経済全体の規模が頭打ちであることがいろいろな問題を引き起こしていることになるわけです。

 さて表題の件ですが、岡田さんは同書の中で、消費税に直すとどのくらいの一人当たり実質GDPが現時点で失われているかを計算しています。
例えば控えめにバブル経済前の1987年を起点にして、一人当たり実質GDPが毎年2%ずつ増加していくとしましょう。この想像上の毎年2%の一人当たり実質GDPの増加と、実際の一人当たり実質GDPを描くと図のようになります。

 これをみると1998年でトレンド線と一致して、あとはずっとその2%成長率のトレンドを実際の一人当たり実質GDPが下回り続けていることがわかりますよね。つまり自然に成長できてるはずなのに、日本は実際にはそうなっていない。この98年ぐらいから、実は日本は、本格的な長期停滞に陥ってしまってるのです。バカになって学習効果を発揮できない国に。

 さて、現在の一人当たり実質GDPは約397万円です。2%トレンドを達成していれば約469万円になったはず。この差が72万円であることはわかりますよね。

 いま469万円の方に消費税率5%をかけるとだいたいの消費税額が23万円超になります。つまりふつうに成長していれば得たであろう所得と、現実のなさけない所得の差額である72万円を、消費税額に換算すると約15%の消費税と等しくなるというわけです。

 つまりいまの日本では目に見える消費税率は5%だが、それ以外に潜在的な消費税率がこれに加えて15%も課されているのと同じである。しかも後者は何かに使われるわけでもなくまさに「失われて」しまっているのです。ふつうにやってれば自然に得たであろう所得が、あたかも税金で消えたように人々の手元からパーっと消えてしまう(笑)。

 不謹慎に笑ってしまいましたが、もちろん笑いごとではありませんよね。目にみえない重税とはこのことです。私たちの暮らしが平均して現在時点であんまりハッピーではないのは、この失われた実質的価値の大きさに主に依存しているといっていいのではないでしょうか。

 日本の本当の消費税は5%ではなく、まさに失われた所得の分をあわせて20%の「酷税」を国民一人一人が負っているというのがいまのわたしたちの現状なんですね。こんな重税の中で、また消費税だけを増やす議論を爆走させる政府。本当にやれやれです。