米連邦準備理事会(FRB)は9月13日の連邦公開市場委員会(FOMC)で量的緩和第三弾(QE3)を決め、さらなる緩和姿勢を明確にした(注1)。そして欧州債務危機にゆれるユーロ圏では、欧州中央銀行(ECB)がOMT(Outright Monetary Transactions)の実施を決定し、現段階ではこの枠組みでの国債買い取りは無いものの、支援要請がなされればEFSF、ESMと歩調を合わせる形で1年~3年満期の国債を無制限に買い取る枠組みを整えた。

FRBが行ったQE3は株価に反応するとともに、将来の景気回復期待感の高まりもあって長期金利は緩やかに上昇することでドル高の地合を作った。そしてECBの対応は具体的な追加緩和策ではなかったものの、欧州債務危機を食い止める手立てが準備された事が市場に好感されて、大きく下げられたユーロは少しユーロ高に戻す形で推移することになった。結果、円はドル円レートで78円台、ユーロ円レートで103円台まで円安が進んでいたというわけだ。

このような情勢の中で昨日・本日の二日間にわたり開催された日銀政策決定会合では、欧米諸国の政策を踏まえて日本銀行がどのような政策対応を取るのかが注目された。結果は、日本銀行資料(注2)に記載されているとおりだが、ポイントを示すと次のとおりである。

まず、資産買入等の基金を70兆円程度から80兆円程度に10兆円増額することが決まった。10兆円の内訳は、短期国債5兆円、長期国債5兆円であり、基金増額は短期国債の場合は2013年6月末を目処とし、長期国債は2013年12月末を目処として買い取りを進めていくとのことだ。そして長期国債の買入れをより確実に行うため、入札下限金利(年0.1%)を撤廃することを決めた。さらに政策金利については、従来通り0~0.1%程度を維持した。

さて、以上の内容から筆者の頭にまずよぎったのは、今回の決定もToo little(しょぼい)であるということだ。

10兆円という額は、FRBがQE3を導入する際に決めた住宅ローン担保証券(MBS)の買い取り額(月間400億ドル=3兆円強)の3倍程度といった規模である。そして追加的に13年1月から13年12月末の1年間で10兆円を増額するということであるため、単月あたりの増加額にならせば8300億円程度となる。QE3と比較しても買い取り額の規模は少ない。

加えて、QE3の決定は即時に実行に移されるが、今回日銀が決定した基金増額は2013年以降についてであり、2012年9月以降の金融緩和には何ら影響を及ぼさない。つまり景気の持ち直しが一服しており、リスク要因に引き続き注意が必要という現状で2013年以降の金融緩和の規模を増やそうというのが狙いというわけだ。景気の持ち直しが一服する状況に合わせて、より長期にわたって緩和姿勢を維持するという趣旨は理解できるが、見方を変えればなぜ2012年内の基金増額は手付かずなのだろうかという疑問もよぎる。海外経済の減速状態が強まる中でToo Late(遅すぎ)とのそしりを受けても不思議ではないだろう。

FRBはQE2には一定の効果があったと述べる一方で、QE3ではQE2への批判を踏まえつつ雇用環境の改善を担保するような経済環境の好転が確認できるまで無制限に、かつ総額を決めずに毎月の買い取り額を明らかにして実行するというオープンエンドの金融緩和策に踏み込んだ。だが日本銀行の今回の決定はQE2と同様の形、つまり期限と毎月の買い取り額を決めて実行していくという政策にとどまっている。

元々QE2の効果に懐疑的なエコノミストの目線からすれば、単なる基金増額は「やっても無駄」であるだろうし、QE2に積極的なエコノミストの目線でも基金増額は「しょぼい」の一言で片付けられてしまうだろう。QE3という新たな枠組みを見せつけられた今となっては徒労感すら感じてしまう。

QE3の決定に対して政策決定会合ではどのような検討がなされたのかは総裁会見でも語られるかもしれないが、目指すべき姿をより明確にして、目標を達成するために今、何をするのかを具体的な形で明確に表明・説明することがこれまで以上に問われているのではないか。

今回の決定もFRBの政策決定に追随したものという見方も可能だが、本気でFRBに追随するのならば、例えばこんな政策決定を検討されてはいかがだろう。

1.物価安定の「目途」という曖昧な形ではなく物価安定の「目標」と従来の目途を明確化した上で、CPI総合1%というターゲットを引き上げ、3%とすることを表明する。

2.1.を達成する手段として、現行の資産買い取りの枠組み(資産買入れ等の基金)に加えて長期国債を毎月5兆円のペースで、1.が消費者物価指数統計の前年比で半年間継続するまで「無制限に」続ける。

3.2.で十分でない場合には、米国債を含む他資産も含めて購入することを否定せず、必要な法改正があれば政府との相談・協力の上で果断に実行する。

1.は持続的な円高基調とデフレ傾向を脱するには、CPI総合で1%という物価上昇率は明らかに力不足であることを念頭に置いている。デフレが15年程度続くことを念頭におけば、4%でも良い。目標と再設定の上で、目標となる物価上昇率を引き上げることがまず必要だ。

そして2.のポイントは、日銀自身が「物価上昇率が○%で安定的に推移する」と判断するのではなく、統計的指標に基づく明瞭な形での判断材料を提供するという利点を有している。買い取り対象が長期国債であるのは、わが国の現状を考えると他資産と比較して買取り余地が最も大きい(底が見えにくい)ためである。毎月の買取りペースは、FRBのQE3と比較して少なくならない額が基準の一つになると考える。

さらに3.のポイントについては、うまくゆかない場合の次の一手の可能性を明示しつつ、断固として行動する姿勢を明確化することが必要だと考える。米国債を購入することで金融緩和を行うという手法が提案された際に筆者が気になったのは、それが現行法では無理だという批判(指摘)であった。無理ならば法改正をするように動くべきだし、様々な可能性を含めてボタンを押すという姿勢を堅持すべきではないか。

FRBがQE3を決め、ECBがOMTの枠組みを定めるという状況の中で、今回も日銀が追加緩和に踏み切らなかったとすれば、恐らく一旦円安にふれた為替レートは即座に円高へと方向転換したであろう。今回の追加緩和決定でひとまず最悪ケースは回避されると期待したい(注3)が、Too Little, Too Lateであるという現状は何ら変わりがないと考えられるのである。

(注1)QE3の内容については、SYNODOS JOURNALに寄稿させて頂いたのでそちらを参照されたい http://synodos.livedoor.biz/archives/1976589.html

(注2)http://www.boj.or.jp/announcements/release_2012/k120919a.pdf

(注3)日銀の追加緩和直後には1ドル=79円10銭程度まで円安が進んだものの、その後ジリジリと円高が進み、78円10銭台で取引されている(9月20日14時半現在)。追加緩和の為替レートに与えた影響は半日程度で終了したが、その後は①積極的とは言えない日銀の追加緩和、②支援要請の遅れが懸念されるユーロ、③QE3を行った米国といった要因が作用していると考えられる。19日に上昇した株価も為替レートの動きを反映して反落している。(9月20日14:30追記)