普段は絶対に手に取らない反アベノミクス本ですが、書籍の企画のために仕方なく読んでみました。
予想していたことですが、その内容の酷さ(というか中身のなさ)に頭がクラクラしてしまったのですが、今回はその原因として考えられるポイントを5つまとめてみました。
(これはあくまで私個人の評価であり、異なる評価、感想を持たれた方の意見を否定するものではありません。)

1.証拠、データの薄弱さ
とにかくデータ、表、グラフが少ない。私も経済書という同じカテゴリーの本を書いてますが、本文の主張を裏付けるために、自分が主張する理論に従って現実が動いているための証拠を意識して沢山出すようにしています。ところが、反アベノミクス本は「○○であるはずだ」「○○が常識」といった断定調の文章が多いわりには、それを裏付ける証拠の提示が疎かになっています。今はネットで何でも簡単に裏取りできる時代です。こういう本の著者は読者はバカで自分の言っていることを検証できないだろうとタカをくくっているのでしょうか?

2.経済理論としての一貫性のなさ
典型的なのはある章で「金融緩和でインフレは起きない」と言いながら、別の章で「国債金利が高騰して、国債が暴落、国家破産」と言ってしまう矛盾に満ちた態度です。インフレが起きないとしたら、日本円で確実に金利を稼ぐ手段は国債しかありません。金融機関は人々から預かったお金を運用する手段を常に求めていますから、一番有利な手段に資金をシフトさせます。実際にデフレ時代に国債価格はどうなったかを見れば、論より証拠でしょう。インフレにならな(デフレのまま)なのに国債暴落などというのは言語矛盾のレベルで愚かな考えです。
ところが、反アベノミクス本は過去の経済事象について、ある時は金融政策無効論(インフレは起きない)で解釈し、ある時は金融政策有効論(国債暴落)で解釈するという矛盾を犯しています。彼らの経済理論が今一つ分かりにくいのはそのためです。

3.読み物としての退屈さ
そもそも、データも証拠も貧弱で完全に矛盾した主張ですから論理的には破綻しています。放っておけば自己崩壊するこの理論をそれなりに根拠があるかのように見せるにはどうすればいいのか?
反アベノミクス本の著者たちは、生硬で難解なタームやレトリックを駆使して無から有を生み出そうとしています。読者に分かりやすく伝えれば中身がスカスカな事がバレますので、なるべく分かりにくく、本質があるかのように見せかけて先送りし、肝心な根拠にあたる部分は特に分かりにくく書かれています。
かつて、新左翼運動が滅びた後、「ニューアカデミズム」という
思想運動が生まれました。これは、新左翼のなれの果てだったのですが、物理や数学の難解なタームを多用してさも深淵があるかのように演出して、騙されやすい学生を魅了しました。もちろん、エリート無謬説という素朴理論に立脚しているので、やっている連中はその主張より学歴や学位をひけらかして相手を見下すことを主眼としています。
これって、反アベノミクス本にも完全に共通してますね。

4.陰謀論としてのレベルの低さ
私の専門(?)なのでこれだけは言わせていただきますが、陰謀論的な話のレベルが低い!一部の反アベノミクス本に「金融緩和派アメリカ陰謀」といった論調がありますが、経済理論以上に歴史的な流れ、史料的な検証がなく、単なる言いっぱなしになっています。日銀のデフレ政策が円高を招き、円高が産業空洞化を招き、産業空洞化が中国経済を利してきたといった主張に対してカウンターを張ろうとしたのでしょう。仮にそうなら、こういう本を書いている連中が親中派だということを自白していることになり、自爆して燃料投下という結論になってしまいます。

5.現実を全く説明できないポンコツ理論
日銀は単に2%の物価目標を設定しただけで、まだ具体的な資産買い入れなどは実行していません。ところが、円安株高は大幅に進みました。これは我々リフレ派が主張する「期待のはたらき」がいかに重要かということを如実に示しています。
現に、予想インフレ率の市場コンセンサスであるBEI(ブレーク・イーブン・インフレ率)は昨年11月の解散以来右肩上がりです。予想インフレ率の上昇と円安株高は完全に連動していると考えた方が現実を上手く説明するのは疑う余地もありません。
また、国債が暴落するという主張も、現下の国債価格の推移をみれば完全に誤っていることがわかります。解散総選挙以来、国債価格は上昇(金利は低下)していて、何をどう考えても安定的に消化されている、というかむしろ国債を買いたい人が多すぎて枯渇感すらあるという状態です。これは当たり前の話で、民間の金融機関は今後日銀という大口の買い手が現れて国債が買いにくくなり、金利もさがるであろうことを予想しているということです。
反アベノミクス本をいくら読んでも、これらの現実を整合的に説明する理論は書いてありません。

まとめ
反アベノミクス本を読む前に次の言葉を肝に銘じましょう。

少年老い易く、学成り難し
一寸の光陰、軽んずべからず

人生は、短い。
時間の無駄はなるべく減らしたいものだなと思う今日このごろでございます。