安倍晋三第二次政権が発足する前後から、安倍首相が金融政策を中心にしたいわゆる「アベノミクス」をとり、日本をデフレの底から積極的に脱却させよう、という姿勢を鮮明にみせている。もちろんあいかわらず、日本の金融政策を担っている日本銀行や、また安倍政権を支える与党や閣僚がいらぬことを話したりして、アベノミクスを妨害している。ただ首相の姿勢は一貫して正しい。これは僕だけではなく、海外の主要な経済学者がそろって評価していることだ。 

 ところでそもそもデフレってなんでまずいのだろうか? デフレとはデフレーションの略語であり、「物価が継続して下落する状態」を意味する。日本では実質上すでに20年ほどのデフレ状態が継続している。

いまの日本経済も、まだアベノミクスの効果がはっきりと出ていない(株価や円安の進展はぬかせば、物価が上がるのは時間がかかる)。現状では、リーマンショック以降デフレの度合いを深め、現時点でもマイナス0.6%(食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数で前年同月比)である。

 デフレは、たとえわずかなものであっても、日本経済に深刻な影響をもたらしている。デフレという現象は、これを経済全体の所得の面からみると、人々の名目所得の額が減っていることを意味している。簡単にいうと日本に住んでいる人たちの財布の中身がどんどん貧しくなっていることと同じだ。毎月の給料やボーナスの減額が続き、それによって消費が伸びない。つまりデフレになると企業の売り上げが低迷してしまう。

 たとえば、帝国データバンクの調査をみると、2000年に比べて2010年売上高は3.9%減、減少額は 13兆8482億円に上るという。企業が利益を確保するためにコストを下げようとし、投資や人員を減らし、また賃金を下げる。正社員の待遇を悪くすると強い抵抗があるので、まずは最初にカットするのは新規採用や、また派遣社員やアルバイトなど非正規雇用の人たちである。この結果、若い世代を中心にして失業率が次第に高まっていく。

 またデフレは財政危機も加速する。企業の利益や人々の収入が減ると、政府の税収は落ち込み、またその一方で景気対策のために財政支出が増える。さらにいまの政府では各種税率を上げることで、さらに経済の鈍化を招くので、一段の税収低下がもたらされる。
 
 名目所得の伸びとリンクしている年金や保険の保険料収入も伸びなくなり、年金危機は加速する。年金はインフレについては調整されるが、デフレの場合では単に切り下げられてしまう。

 さらに国内の消費や投資が冷え込むので、日本経済は外需依存の傾向が増してくる。リーマンショックによる影響がその発祥地である欧米にくらべて日本が強くでた主因は、日本の経済が不安定であり、なおかつ外需依存であったからだ。アメリカや諸外国の日本からの輸入が縮小すると、日本経済は先進国の中で最も成長率が落ち込んだ。

 また円高傾向もデフレの結果である。為替レートはいまの日本と世界の関係では、ほぼその各国中央銀行が操作している貨幣の量の大小によって決定しているといっていい。特にこれからどのように変化するかという将来の予測にも大きく依存する。日本ではこれからもデフレが続く=貨幣の量は諸外国に比べて相対的に少ない、と予測されているために、円高が継続してしまう。円高が継続すると、輸出産業や繊維産業のような輸入競争産業が苦境に陥り、さらに波及してサービス産業も大きな悪影響をうける。例えば、震災に見舞われた福島経済では、公共事業は盛んだが、他方で同地区をけん引していた製造業(輸出関連)やサービス産業は軒並み規模を縮小している。これは震災以降のさらに一段の円高の悪影響だ。

 さてこのような「後退する日本経済」を防ぐにはどうするべきか。その答えは人々の名目所得を増加させる政策があげられる。名目所得、つまり簡単にいえば給料やボーナスを増やすには、デフレをストップさせることである。いままでの議論からもわかるように、デフレによって円高生じているわけだし、外需依存という不安定性も生まれている。これを払しょくするには、デフレをやめること。日本銀行が過去20年近く継続してきたデフレ放任政策をやめることが重要である。  

 具体的には年々の日本全体の名目所得の増加率が最低でも4%になるような政策を、政府と日本銀行が協調して採用するべきである。これが安倍首相が進めようとしているアベノミクスの核心だろう。また経済財政諮問会議を再起動してそこで協調の議論をすすめるのがいいだろう。

 さらにこの会議でも協調に至らない場合は、日本銀行法を改正し、日本銀行の政策目的の中に上記の名目所得の増加率を一定に保つターゲットを設定すればいいだろう。これは物価の上昇率を2%にしてて、実体経済の伸び率を1%と見積もり、あわせて3%の名目成長率を目指す政策などである。すでに政党を超えて日本銀行の政策は疑問視されている。しかしそれに抵抗する勢力も強靭だ。  

 1月の日本銀行と政府との「共同文書」では、その協調がはかられるはずだったが、むしろ官僚お得意の作文術が全面にでてしまい、積極的な金融緩和に転換しないのではないか、という懸念がでてしまい、株価は下落、為替レートは円高にふれた。この原稿を書いている段階では、これから日本銀行総裁人事があり、そこでアベノミクスに理解のある日銀総裁にチェンジするのではないか、という根強い期待から、また円安、株高にふれてはいる。しかしこの先どうなるのか、政治的にはかなり不透明だ。

 それでもいままでの日本の不透明なレベルよりは比較にならないぐらい展望がひらけた。

 金融政策に対する姿勢が、デフレ継続を許すものから、デフレ脱却を積極的に促すものに転換することを、「レジーム転換」「レジーム・チェンジ」といっている。その兆しがまだあるということは、いまの日本、そして将来の日本にとってかならず明るいものになるはずだ。ただ注意はいくつも必要。例えば、株価、為替レートの変化が先行し、そのあとに景気の改善、物価の上昇、そして雇用の改善などが遅れて続くということ。焦ってしまうのはまた禁物でもあるのだ。そのためにもマスコミや一部の評論家の扇動に踊らされないこともまた重要だろう。いまこそ日本人の叡智が求められているんだ。

『電気と工事』(オーム社)2013年2月号掲載の論説を転載しました。