人気経済評論家の上念司氏が、ついに経済の枠を超え、日本の危機管理について語った。

本書の中で上念氏は危機管理上問題のある、政治思想の素朴理論として「設計主義」を遡上に上げている。

設計主義とは、オーストリアの経済学者ハイエクによって提唱された概念であり、上念氏によれば

①人間は、神にも匹敵する理性を持っている
②人間は、理性によって導かれた合理的な社会を設計できる

という特徴を持つという。

ではなぜ、こうした設計主義が問題なのだろうか?

上述した①と②の特徴を持つ設計主義では、人間の能力が過大に評価されている。人間が神にも匹敵する理性を有し、その理性によって導かれた合理的な社会を設計できると思い込み、古代ギリシャで考えられていたような「頭のいい人たち」が「頭の悪いひとたち」を領導することによって理想社会を築くという「哲人政治」が可能になるというのだ。

しかし、現実には哲人政治はうまくいかない。大衆が「頭のいい人」と思って選んだリーダーは偽物かもしれず、哲人の資質に欠けるかもしれないからだ。私たちは自分たちが選んだリーダーが必ずしも万能とはいえず、失敗するかもしれない存在であること、そして、失敗するかもしれないのだから、過大な権力を与えてはならいということを肝に銘じておかなければならない。これこそ、上念氏の説く危機管理の要諦だ。

こうした設計主義の具体例を考えるとき、まず思い浮かぶのは共産主義だ。

だが、設計主義的な考えは共産主義に留まるものではない。意外なところでは、国家社会主義を標榜したナチズムなども設計主義の範疇に入る。過去の政治社会体制を理想なものとし、現在の社会体制を過去のものに戻そうとする復古主義も同様だ。

これらはいずれも、ある理想の社会体制を想定し、エリート的な指導者のもと、あらゆる犠牲を厭わぬ精神によってなされる革命により、そこへ到達しようとする点において同類と言える。そして、左翼的と言われる共産主義、右翼的と言われるナチズムも設計主義という点において同根と言えるのなら、右翼―左翼という対立軸は、設計主義という同じ土俵の上での路線対立に過ぎないのではないかと上念氏は喝破するのだ。

「おまえはウヨクだ」
「おまえはサヨクだ」

と幼稚なレッテル貼りをしているばかりでは、今後の日本の危機管理は覚束ない。

本書を読んで、これからの安全保障を考えるには、旧態依然とした紋切り型の発想を超え、多様な角度から戦略的思考を行うことが大切なのだと学んだ。