「ライブ・アイドル」という言葉をご存じだろうか? AKB48やももいろクローバーZのような日常的にテレビやコンビニにある雑誌の表紙などで目にするアイドルたちとは、活躍する場所が、小規模のライブ会場やネット放送などに活躍の主舞台をもとめているアイドルたちのことを指す言葉だ。一つひとつのアイドル(グループ)では、単独のライブも難しいことも多く、いくつかのアイドルたちが結集して時には大規模なライブやイベントを行うこともある。しかし営業力に劣る彼女たちの活躍の場は、やはり「地下」(小規模なライブ会場は雑居ビルの地下にあることが多い)であり、それゆえやや蔑称的なニュアンスが含まれるが「地下アイドル」ともいわれたりもする。

 彼女たちの多くは別に好き好んで「ライブ・アイドル」的状況を選択しているとは思わない。多くのアイドルはやはり武道館でライブをやったり、自分たちの歌曲がランキングの上位にいき多くの人に聞かれることを望んでいるだろう。 しかし、他方で、いまのアイドル市場で最も実験性と、アイドル現象の典型的で先鋭的なものがみられるのもこの「ライブ・アイドル」の“現場”である。アイドルの未来も、そしてアイドルを消費するファンのあり方やマネージメントやプロデュースまで、この一見するとマイナーな現場で見ることが可能だ。少なくとも僕はそう思っている。

 僕が知らずにこの「ライブ・アイドル」の世界に傾斜したのは、九州の有力アイドルであるQunQunを通してである。2011年の秋に、偶然に彼女たちを取材したNHK福岡の特別番組に出演したことを契機に知り合うことになった。いまも僕にとっては(彼女たちにとっては正体不明のおっさんかもしれないがw)アイドル市場を知るうえで欠かすことができない存在である。ちなみに経済学とはまったく関係ないが(笑)、QunQunのセンターである大野香澄は、僕がアイドルを理解するときの(AKBの指原莉乃やももクロと同じように)基準のひとつだ。ぜひ読者のみなさんも応援していただきたい。あと他のメンバーでは、姫川れいあ、村田あかり、西澤亜希らがお気に入りの面子である。その美少女軍団ぶりはいまだに全国レベルである。
ところで、2010年以降のアイドル市場には大きくふたつの波があった。ひとつは、AKB48の大ブレイクとそれに影響をうけたローカルアイドルの族生である。QunQunも2011年の春にこのAKB48ブームの波及で生まれた数多くのローカルアイドルのひとつである。規模的に60人から30数名までその時々に応じて激しくメンバーを(人気投票などで上位メンバーを)入れ替えて今日まで継続している。いまでもチェック柄の制服、そして永遠に続く学園的なテーマを採用している点で、彼女たちがAKB48の「娘」たちのひとつであることがわかる。“学園”は移動せずに、専用のロケーションを求める(=定期ライブの拠点を確保する)ことでもAKB48的な「会いにいけるアイドル」の遺伝子を継承している。これはQunQunだけでなく、2011年に多く生まれたローカルアイドルやまた東京、大阪の大都市でのアイドルたちにも共通する要素のひとつだ。

 このAKB48ブームと並行して、今日の「ライブ・アイドル」の大きな核を形成しているのが、「ももクロ」的なものである。「ももクロ」=ももいろクローバーZは、学園ものとは一線を画し、ライブ・パフォーマンス(例:百田夏菜子のエビそりジャンプなど)への重点的演出、サブカルチャーや異種分野をさまざまなネタとして意欲的に取り込む、ustreamでの独自放送、色物をおそれない営業戦略などに集約される。この「ももクロ」的なフォーマットは、AKB的なフォーマットとももちろん共通項もあるのだが、やはり区別しておいた方が便利である。注意すべきは、「ももクロ」的なフォーマットは、ももいろクローバーZ(その先駆名称のももいろクローバー)が最初に発明したわけでもなく、また彼女たちの独占物でもないことだ。実際に、多くの「ももクロ」的な要素は、多くのライブ・アイドルが“知らず”に採用している。例えば、「ももクロ」的なものの本家どり (どちらが元祖か競い合う)をギャグにした、ナカGの『ナカGの推しメン最強伝説』(太田出版)では、ももクロがBerryz工房の真似をしているとして両者がバトルするマンガが描かれていることからもわかる。

 このAKB的なもの、ももくろ的なもの。そのうち前者は、いまはかなり衰退していて保守的な様相を呈し限界に直面している。そしていまライブ・アイドルの中心は、まさにライブ・アイドルの名前に恥じない、ライブ・パフォーマンスに特化した「ももクロ」的なものをさらに加速させている。特に観客をときに扇動しその行動を誘導する「移動」系や、また観客の中でアイドルがリフトされたり、観客の中にダイブするという手法も取り入れている。マスゲームやプロレス、そしてロックなどでのパフォーマンスの要素を積極的に導入しているのだ。 このニューウェーブの代表は、しず風&絆、小桃音まい、さっちゃん、asfi(NHKのあまちゃんサポーターであるGNT48の東京代表)などのアイドルたちである。
 さらにライブ・アイドルには独自の進化が、その市場の特性に合わせて生じている。ライブ会場が小規模であり、コアなファンが集まりやすい環境であればあるほど、そこに来場する観客たちの年齢層がものすごく高いことだ。おそらくアイドルに興味のない人たちが、1970年から90年ぐらいまで、アイドルのファン=若年層としてもっているイメージを完全に裏切るだろう。
 あるライブ会場で目測してみたところ、僕と似たような容姿(頭髪が少ないとか白髪、肌の雰囲気など)から、例えば来場者数50名とするとその半数以上が30代後半だろう。50代も多い。ライブ・アイドルの会場では、10代のファンは少数派であり、また女性も同様である。逆にこの層にアピールすることで“メジャー化”することになる。
 ところでこファンの高年齢化は、ライブ・アイドルたちの平均的な年齢(10代後半)とはかなり離れている。親とまさに子供だ。運が悪いと(?)孫とおじいちゃんの関係さえでてくるだろう。
 ここでライブ・アイドル関係の市場で注目すべき変化がある。それはアイドル消費の「ケア」化だ。つまり高齢者へのケアそのものになっていることだ。ライブ終了後の物販や握手会での様子は、まさにアイドルたちが高年齢者の精神的なケアをほどこしている場に似ている。僕自身はほとんど価値を見出してないのだが(笑)、多くの高年齢ファンにとってアイドルとの握手は、また精神的だけでなく、介護してくれている人の優しきケアの手なのである。そしてファンの数も少ないので個々のファンが「愛称」でアイドルたちに認知されることも深いつながりを生んでいる。大規模病院でベルトコンベアのように処理されているのではないのだ。
 おそらくアイドル市場の今後の変化には、このライブ・アイドルのケア的側面が大きく作用するだろう。

『電気と工事』掲載の元原稿。夏の終わりごろ書いたもの。いまはちょっと違う見方にも進展しているけどご参考まで。