昨日(10月31日)の日銀・黒田東彦総裁の記者会見を見た。じっくり見た。やはり、この人は筋金入りの戦略家だ。経済学の知見をよく理解していて主張は一貫している。昨年4月4日の異次元緩和から、何もぶれていない。やはり愛国官庁大蔵省の本流、聞きしに勝る愛国者という話は大げさではない。

●「天才かつ秀才だが、経済はわかっていない?」と批判する経済オンチ
今回の追加緩和を「今回の日銀の金融政策決定会合においては、彼の結論も打ち出した政策も間違っている。何のための追加緩和なのか。量的質的緩和の拡大は何のためなのか。何のためにもならない金融緩和策を打ち出したのは、なぜなのか。(東洋経済オンライン『黒田総裁は天才かつ秀才だが、間違っている』)」などと批判をしている学者がいる。慶応大学の小幡氏である。

彼は経済の基本がわかっていないのではないか。そういう疑問がわいてきた。ハーバード大学で博士号を取ったそうだが、経済については理解していない。そう思わざるを得ない。

小幡氏は言う、「今回の追加緩和は大きなサプライズだった。日経平均株価は755円もの上昇となり、GPIFネタで200円程度上げていたこともあったが、そこからさらに500円上げた。これはまさにサプライズだった。そして、これは、追加緩和を自分の都合で要求していた短期筋の海外投機家にとっても同じだった。まさか、今だって?そういう声が聞こえそうな、金曜の午後1時過ぎの暴騰だった。」

で、だから何?

市場で自分の身銭を切って取引している人たちは、「実質金利」という言葉を知らなくてもその行動は実質金利で説明できる。バカな人にも分かるように説明しよう。金利1%の住宅ローンを組んで3000万円の家を買い、1年後に売却したと仮定する。1年後の金利負担は30万円だ。しかし、この時家が値下がりして2900万円でしか売れなかったとき、金利30万円と売却損100万円の合計130万円が実質的な金利負担となる。

これに対して、家が値上がりして3100万円で売れた場合、金利は負担30万円であるが売却益100万円と相殺するとトータルで70万円も儲かってしまったことになる。この70万円の儲けが実質的な金利負担である。儲かってしまったのでこの間の金利はマイナスだったと説明することも可能だ。

実質金利に影響を与えるのは物価変動(より正確に言うと予想インフレ率)である。物価はモノとお金のバランスで決まる。お金をより沢山発行すればお金の希少価値が下がり、お金の発行をケチればお金の価値は上がる。黒田総裁は就任以来、一貫してお金を沢山刷る政策を実施している。今回それをダメ押しした。だから、みんなリスクを取って資産を買った。それが端的に表れたのが株と為替だ。市場関係者はこういった理論的な背景は知らなくても、感覚的に将来何が起こるかを予想している。みんなの反応が将来の期待を反映しているではないか。市場とはバカが賢い奴にむしり取られる場所だ。。バカなヘッジファンドのトレーダーが驚いた、へぇ、それで何か?バカな人はせいぜいむしり取られればいい。それだけではないか?

黒田総裁は記者会見でいつも通り、質問に丁寧に答えた。いつも通り、ぶれなく筋を通し、また正直な黒田総裁らしい、自分の信念を率直に語る記者会見だった。

●記者がいつもと違った理由を教えて差し上げよう
これに対して、小幡氏は次のように述べている。

「しかし、記者の側は、いつもと違った。(中略)昨日は違った。記者たちも馬鹿ではない。経済学がわかっていなくとも、黒田氏に議論で論破されようとも、何かがおかしい、と質問を浴びせ続けた」

なぜ反応が違ったか、私が教えて差し上げよう。彼らが経済学のごくごく基本的な知識も持ち合わせていないからだ。追加緩和の意味も、そもそもデフレが貨幣現象であるという基本的な事実すら理解していないのだ。そんな知識不足の記者に、日銀総裁会見に出席する資格はそもそもないのだ。ある有名アナリストは次のような新聞記者との笑えないやり取りがあったと証言している。

某大手新聞記者さんから電話取材。「異次元緩和をやっていて、さらに金融緩和強化すると、弊害が心配とされていますが、どう思いますか?」

アナリスト:「弊害とおっしゃっている人がいるのですか?その弊害とやらを具体的に言ってもらわないと、私もきちんとした説明ができないのですが」

新聞記者:「すみません。私もまだ取材・勉強中でございまして、わかりません」

●デフレマインドとは何か
小幡氏は黒田総裁に「ところで、デフレマインドってなんですか?」と質問したかったそうだ。私が代わりに応えて差し上げよう。デフレマインドとは「小幡績という存在」そのものであると。

かつて小幡氏は自身の著書『リフレはヤバい』の中で、次のように述べて、国債価格の暴落が始まったと結論づけている。

「日本国債の動向。それがすべてを握るのです。すでに国債価格の下落は2012年12月から始まっています。12月上旬から1月の初頭にかけて2%値下がりしています。(p92)」

客観的な事実はこうだ。2012年3月13日に国債価格は141.13だった。その後、年末にかけて価格は上昇し同年12月10日に144.37という高値を付けた。その後、小幡氏の指摘通り年明けの1月4日には143.27まで国債価格は下落した。しかし、その後は再び国債は買われ、2013年3月11日時点では144.99という高値で引けている。この原稿を執筆している直近の価格(2014年10月末日の終値)はこの頃よりもさらに値上がりして146.530となっている。

このように市場のごく短期的な変動を捉えて、日本経済が悪い方向に行くという妄想を吹聴する精神状態こそが「デフレマインド」の正体なのではないか。現に小幡氏は今回の株高、円安も好ましくないらしい。円高でも円安でも、株高でも株安でも日本が滅びる方向に解釈したい。そういう邪な考え(いわゆる「日本ダメ論」)に支配された小幡氏こそ「デフレマインド」そのものだと言っていい。むしろ、黒田総裁にしようとした質問は自分自身に向けるべきだった。今からでも遅くないので自問自答してみることをお勧めしたい。

小幡氏は前出の東洋経済オンラインの論説のなかで、最後に「日本の構造問題」なるものを論評している。デフレマインドの権化が構造問題とは片腹痛い。構造問題の前に、精神(マインド)の問題を克服すべきだと思うのは私だけではないだろう。

小幡氏とは以前参議院予算員会の公聴会で正反対の意見を述べさせていただいた。どちらの意見が勝ったのか、事実を見れば明らかだ。すでに論破された主張をしつこく繰り返していたら世間から悪質なプロパガンダだと批判されても文句は言えまい。「デフレマインド」の正体も分かったことだし、この辺で小幡氏の君子豹変を期待したい。

参考資料