社会学者濱野智史氏の意欲的な「アイドル共産党宣言」で生まれたアイドルグループPIP。「やりがい搾取」を批判し、アイドルを生むアイドルを育成すると打ち出して22名でスタートした同グループ。と同時に濱野氏のアイドルプロデュースは、派生的なふたつのアイドルグループを生み出している。ひとつはPIPとほぼ同時期に生まれた「見捨てられたアイドル」をキャッチフレーズにする“あヴぁんだんど”。もうひとつは動画を中心に国際的に注目されているロリータ系アイドル“meltia”だ。meltiaについては濱野氏は当初はアドバイザー的役割であったし(現在は詳細不明)、あヴぁんだんどに至っては事実としても濱野氏には「見捨てられた」(実際には多忙で手がまわらずに別な運営組織に独立)。

 濱野氏はPIPの方にかなり力を傾注したが、 一年を経過してこの三つのグループをみると、PIPは毎月のように卒業者や休業者をだし、センターとエースの卒業も決まり、ほぼ稼働できるメンバーが三分の一まで激減した。対して、国際的な認知度が高いmeltiaや、7月11日にデビュー一周年を迎えたあヴぁんだんどは活躍の場を広げている印象が強い。もちろんPIPは当初の公約通りに、LasRabbi(ラスラビ)というアイドルが生み出したアイドルを誕生させていることは注目すべきだ(PIPの森崎恵がプロデュース)。

 あヴぁんだんどのデビュー1周年ライブは、神楽坂Trash-UP!!で行われ、多彩なゲストや彼女たちを祝福するファンたちの歓待によって多幸感あふれる現場だった。たまたま評論家の栗原裕一郎氏とともに、最近よくあヴぁんだんどの名前を目にするようになったとtwitterでコメントしたことがきっかけで、スタッフの方に招待していただいた。この小文は招待いただいた不十分な返礼のつもりである。

 会場は満員であり、あヴぁんだんども熱のあるライブを見せていた。一年くらい前にメンバーの東雲好とtwitterで簡単な交流があったものの、そのライブを実際にみるのは初めてだ。彼女たちがちょうど一年前は路上ライブを行っていたこと、くやしい思いをしながらも一年やりとげた達成感、見返したい人たちがいることなどをMCの中で涙をみせつつ語っていたのが印象的だ。

 ライブの曲順は、「あヴぁんだんど」「勝手にしやがれ」「点滅ばいばい」と続け、MCを挟んで「 Feedback Friday 」、「てのひら」。そしてアンコールで再び「てのひら」。アンコールはまったく予想していなかったのか、何を歌うか事前に決めていなかったようなのも新鮮さを感じさせる。前半の三曲は、アイドルの曲としては都会的(コンテンポラリー)な雰囲気で、真夜中のハイウェイを疾走しているような弧絶した味わいがある。楽曲批評は苦手なのだが、この前半の三曲の世界観はぜひ他の(楽曲批評を専門にする)アイドル批評家にじっくり検証をお願いしたい。

 特に新曲の「点滅ばいばい」は、詩人の最果タヒ氏の作詞、佐々木二郎氏の作曲からなる注目作である。最果氏には地下アイドルの世界に題材をとった小説『星が獣になる季節』(筑摩書房)がある。同曲は、この一周年ライブが初披露であり、あヴぁんだんどのメンバーも緊張しながらも、この「名作」を歌いあげた。

 実際にこの曲は今年のアイドルソングの中の代表的なものになるだろう。「見捨てられ 強くなるなんてバカみたいだね」という最果氏の歌詞に、メンバーはライブ中に涙を流すほど感応していた。その作品世界は、まさにあヴぁんだんどのこの一年の闘いを表現しいるのだろう。その一年の活動を目にできなかったのは残念なことである。後半の二曲は一転してファンが盛り上がるもの。会場の乱舞をみているとしっかりとしたコアなファンを抱えているな、と思った。

 あヴぁんだんどは路上ライブから多くの個性的な出演者たちとの対バンを経験しながら、まさに「市場競争」の荒波の中で育っていった。冒頭に言及したPIPがわりと濱野氏のパターナリズム的な指導の中で育成されていたのに対して、経済学的にいえばまさに「清算主義」(競争原理で非効率的なものを淘汰していく考え。簡単にいえば弱肉強食)の世界で、あヴぁんだんどはサバイブしてきたといえる。まだデビュー一年で最終的な評価を与えるのはばかげているが、それでもあヴぁんだんどには、何かいまの日本のアイドル市場が生み出したひとつの優れた成果があるように思えてならない。

 彼女たち自身の発案で語られた、あヴぁんだんどの次なる目標は、「来年のワンマンライブ」。その目標はむしろ控えめにおもえるほど、あヴぁんだんどのポテンシャルは大きい。そう感じさせる祝福の一夜だった。

あヴぁんだんど公式Twitter
あヴぁんだんど公式note